心が晴れず

心が晴れず
何を求めるでもなく
ただ呼吸している
生物としての自分は


ただ呼吸している
飯を食い
眠り
排泄しながら


その合間に
言葉を使うこともあれば
言葉にならぬ衝動に満たされ
それに見合う言葉を探し


耳を傾けながら
これを打つ


これを打って
何になるでもなく
何を得るでもなく


でももし呼吸するように
言葉を打てれば
そうすれば何かを
得られる


だがほんとはそう思っているわけでもなく
ただ胸の奥にあった衝動が少し
その手をゆるめてくれる


そしてつかのま心が晴れる気もする
その瞬間をいつも求めている

概念という概念から身を引き剥がしたい


概念という概念から身を引き剥がしたい
議論という議論から遠く離れていたい


不毛な、人々の議論 
人々の、不毛で不愉快で
隠された権力争い
あるいはただの毛繕いとしての議論


議論しているというただそれだけのことで
人々は自分を知的と感じ
そこにいるというただそれだけのことで
幸福だと感じる


毛繕いのより進んだ形に過ぎないのに
穏やかな権力争いに過ぎないのに


僕は議論をしない
特にこの詩の真実性などは

つねにかりのままのあなたのいたはずのところ


つねにかりのままのあなたのいたはずのところには
すでに、もう誰かがいるのかもしれない
あるいはすでに、誰かが去ったあとかもしれない


だからといってそこにあなたがいなかったことにはならない
だからといってそこであなたが立ち止まったわけではない


つねにかりのままのあなたのいたはずのところで
あなたはあるときある一人のあなたであったのだけど
そんなあなたを見た友や恋人も
今はいないのかもしれない
そのすでに去った友や恋人は
あなたのかりの姿しか知らないかもしれない


だからといって彼らがあなたのことを何も知らないわけではない
だからといって彼らがあなたのことを理解しているわけではない


つねにかりのままのあなたは
いまもかりのままのあなたで
そうしたあなたのことを知っている
あなたの周りの人々のことが
どうしても忘れられずに
あなたの周りの人々たちも
どうしても忘れてくれずに
あなたのいたはずのところを
今も懐かしく思い出し
今も悲しく思い浮かべ


だからといって彼らがあなたのことを何も知らないわけではない
だからといって彼らがあなたのことを理解しているわけではない


でもだからこそ
いまのあなた自身もかりのものであることを
あなた自身が知ることで
きっとあなたを知っていた
その友や恋人たちのように
あなたを思うことができるでしょう


つねにかりのままのあなたのいたところで
あなたはいつまでもかりのまま
その友も恋人もかりのあなたの声を聴き
かりのあなたから発する匂いを嗅いで
かりのあなたを理解した


それは決して嘘ではなく
それは決して偽ではなく
それは決して二度となく
それは決してあなたではなく
だからといって嘘にはならず
だからといって偽にはならず
だからといって二度とは起こらず
だからといってあなたにはならず